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東京高等裁判所 昭和34年(ネ)1536号の年(ロ) 判決

控訴人 被告 立川光明

訴訟代理人 杉村富士雄

被控訴人 原告 奥村正右衛門訴訟承継人 奥村うめ 外五名

訴訟代理人 青柳孝 外二名

主文

原判決中控訴人立川光明に関する部分を取消す。

被控訴人らの控訴人立川光明に対する請求を棄却する。

訴訟費用中控訴人と被控訴人等間に生じたものは第一、二審共被控訴人らの負担とする。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

控訴代理人は原判決中控訴人に関する部分を取消す。被控訴人等の控訴人に対する訴を却下する。若し訴却下の申立が理由のないときは被控訴人等の控訴人に対する請求を棄却する。訴訟費用中控訴人と被控訴人等間に生じたものは第一、二審共被控訴人等の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は

控訴代理人において、原審原告奥村正右衛門は本訴が第一審に係属中である昭和三十三年十二月十六日死亡し、控訴人奥村うめは同人の配偶者として、控訴人奥村正右衛門は同人の二男として、控訴人小西よし子は同人の長女として控訴人向山なみは同人の二女として控訴人岡本常次郎は同人の三男として、控訴人中沢ちゑ子は同人の三女として先代奥村正右衛門の遺産を相続し、本件訴訟の目的たる権利を承継した。なお右二男奥村正右衛門は旧名を貞太郎と云つたが、昭和三十四年一月二十四日正右衛門と改名したものである。と述べ被控訴代理人において右事実はこれを認めると述べ

当審における新たな証拠として、被控訴代理人において当審証人畑秀穂の証言、当審における被控訴人奥村正右衛門本人尋問の結果を援用し、乙第二十七号証が昭和三十四年十一月三日撮影された本件土地の写真であることは認める同第二十八、同第二十九号各証の成立を認めると述べ、

控訴代理人において乙第二十七号証の一乃至四、同二十八、九号証を提出し、当審証人山田几、同田中浩夫、同出月利男、同畑秀穂、同大原順二、同平出猛男の各証言当審における控訴人本人尋問の結果並に当審検証の結果を夫々援用した外、原判決の事実摘示中被控訴人及び控訴人に関する部分の記載と同一であるからここにこれを引用する。

理由

先ず控訴人の本案前の抗弁について審案する。

思うに通常訴訟たる賃借人に対する土地返還請求が行政訴訟たるその土地についての賃貸借解約申入不許可処分取消請求の関連請求に当るかどうかは、その請求自体について判断をすべきであるが、本訴に於て第一審原告(被控訴人等先代)は、控訴人立川に賃貸した後記の本件土地は農地ではなく宅地であることを理由として、山梨県知事に対しその土地についての農地賃貸借解約不許可処分の違法を主張しその取消を求めると共に、控訴人立川に対し、同控訴人と第一審原告との間の右土地を目的とする賃貸借は該土地が農地でない関係上知事の許可をまたずして解約または解除の効力を生じたものと主張して右土地の明渡を求めるというのであつて、右両者は行政事件訴訟特例法第六条にいう関連請求にあたらないものとはいえない。もつとも第一審原告は山梨県知事に対し、右不許可処分の取消を求める理由として、仮りに本件土地が宅地でなく農地であるとしても、控訴人立川との間の賃貸借を解除すべき相当の事由があるのに不許可処分をしたのは違法であるとの主張をも附加するのであつて、もし本件土地が農地であるとすれば、山梨県知事に対する右賃貸借解約不許可処分取消請求が認容されたにしても改めて知事の許可がない限り第一審原告の主張する解約または解除は効力を生じないわけであるけれども、山梨県知事に対する右不許可処分取消請求について右のような理由が附加されたからといつて、前記関連性を否定すべきではない。のみならず行政処分取消請求に併合して提起された訴が関連性を備へないからといつて、その訴そのものを当然不適法とすべきではなく単に行政訴訟との併合が許されないに過ぎないものと解するを相当とするから、その訴が他の適法要件を具備する限りこれを却下すべきではなく行政訴訟と分離して審理裁判すべきである。なお併合提起された訴が関連請求にあたる場合でも裁判所が適当と認めるときはこれを分離することも支障ないものと解すべきところ、当審においては控訴人立川に対する請求を分離して審理することとした次第であつて、いずれにしても控訴人立川の本案前の抗弁は採用しがたい。

そこで進んで本案につき判断する。

もと甲府市愛宕町二五一番宅地二九二坪、同所二五四番宅地四七五坪が被控訴人等先代奥村正右衛門の所有であつたところ、同人はこの二筆の土地の一部(約三百坪)を昭和十九年三月二十一日控訴人に対し、賃料一ケ年金二十円毎年十一月三十日その年分を支払うこと、期間同日より昭和二十五年十一月三十日迄の約で賃貸したこと、その後昭和三十三年六月頃右二筆の土地等は一旦合筆の上更に二五一番の一ないし一三に分筆されたことは当事者間に争なく、原審における被控訴人等先代奥村正右衛門本人尋問の結果(第二回)によると、控訴人が賃借した地域は略原判決添付目録及び図面記載の二五一番の五、七、九、一〇、一一番及び同番の一三の一部(以下本件土地という)に当ることが認められる。そして控訴人が現に右賃借地域に当る同図面斜線の区域を占有耕作していること、被控訴人等先代が昭和二十五年二月十五日到達の書面を以て控訴人に対し期間満了の際は本件土地を明渡すべき旨催告して前記賃貸借契約の解約(更新を拒む趣旨と解せられる、以下同断)の申入れをなすと同時に、当時延滞していた昭和二十三年度及び昭和二十四年度の賃料を昭和二十五年二月末日迄に支払うべき旨を催告したが、控訴人は右期間内にその支払をなさなかつたので、被控訴人等先代は控訴人に対し、同年五月九日到達の書面を以て、右賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたこと、被控訴人等先代は昭和二十七年四月十日訴外山梨県知事に対し、控訴人との前記賃貸借契約につき解約の申請をしたところ、山梨県知事は昭和三十年六月二日右申請に対し不許可の処分をしたこと、よつて被控訴人等先代は昭和三十年七月二十一日右不許可処分を不服として農林大臣に対し訴願をしたが、その裁決がないまま昭和三十一年一月四日本訴を提起したことは、いずれも当事者間に争がない。

被控訴人等は本件土地は右山梨県知事に対する許可申請の当時地目は宅地であつたのみならず、現況も亦宅地であつたから本件賃貸借契約の解約、解除等について、本来山梨県知事の許可を要しないのであるが、賃貸当時公簿上畑であつたので、形式上は農地の賃貸借契約であつたから、便宜上農地賃貸借契約と称して知事の許可申請を求めたに過ぎないと主張し、控訴人は原審相被告山梨県知事は、右申請当時本件土地は現況農地であつたから、これについての賃貸借契約の解約解除等については当然知事の許可を要するところ、山梨県知事は審査の結果その許可を与うべきではないと認めたので前示不許可処分をしたのであつて、この処分は正当であると争うので、まず本件土地が右許可申請当時宅地であつたか農地であつたかについて勘案する。

原審並に当審における検証の結果によれば、本件土地は石垣により数段に分れた段階地になつており、最下段が最も広く上になる程面積が狭小になつているが、各階共平坦でその大部分が畑として耕作の用に供せられており、肥培管理もかなり良好で作物の成育状況も上段に上るに従いよくないようであるが、下段の方はさほど悪くはないこと、本件土地の隣接土地も畑地であつてブドー或は馬鈴薯などが栽培されていることが認められ又成立に争のない乙第十二号証、同第十三号証に原審証人志村祥介、同市川泉、同米倉政則、同清水正六の各証言、原審における控訴人本人尋問の結果を綜合すると、控訴人は本件土地を賃借以来鋭意開墾に努力し、そのため数年後からは本件土地は中等度の収穫を得られる畑となり、その頃から前記許可申請の当時迄主として麦を、又季節に応じ茄子、大根、甘藷などを植栽し、麦は平年度五俵(一俵三斗五升乃至四斗)の収穫をあげていたことが窺われる。そして農地としての価値如何は別として右認定を覆すに足る証拠は存しない。然らば本件土地は解約申入許可申請当時にあつても現況農地であつたというべきである。右申請以前本件土地の地目が宅地と変更されていたとしても農地であるかどうかの判断が現況主義に基くべきものである以上右認定の妨とはならない。果して然らば本件土地が農地でなく宅地であるとし、従つてこれを目的とする賃貸借の解約または解除について知事の許可を要しないことを前提とし控訴人に対し右土地の明渡を求める被控訴人の請求は、爾余の点についての判断をまつまでもなく失当たるを免れない。

もつとも被控訴人らは、仮りに本件土地が農地と認められるにしても、前記許可申請については解約を許可すべき相当の事由があるにかかわらず、不許可処分をしたのは違法であるとしこの理由をも附加して山梨県知事に対し右不許可処分の取消を求めているのであるが、仮りにこの取消請求が認容されたにしても改めて知事の許可がない限り本件土地の賃貸借について解約または解除の効力が生ずるものとはいえないから、控訴人に対する被控訴人らの本件土地明渡請求を認容することはできない。(被控訴人らの控訴人立川に対する控訴請求は、本件土地の賃貸借については知事の許可をまつまでもなく解約または解除の効力が生じたことを理由とし即時に右土地の明渡を求めるものであつて、将来の明渡請求でないことは、その主張の全趣旨からみて明らかである。)

然らば被控訴人等の控訴人に対する本件土地明渡の請求を認容した原判決は失当であつて本件控訴は理由がある。

仍て民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第八十九条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長判事 谷本仙一郎 判事 堀田繁勝 判事 野本泰)

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